昨年の石川町SLFでは天候が不安定でコンスタントに望遠鏡の見比べが困難でした。
でもせっかくたくさんの望遠鏡が一堂に会するのですから「アメニモマケズ、クモニモマケズ、シュクシュクトボウエンキョウヲタンノウスル・・・」といきたいところです。
そんなわけで考えたのが『人工連星』なのです。
陸上競技場やサッカー場クラスの広さの場で1〜2秒角の人工連星を達成するための条件は下の図のようになります。
石川町のフィールドを考えると200m位の距離を確保することはできるでしょう。光源を1mm離して設置することもそれほど困難なことではないでしょう。
これならば『即製作』です。
しかし、望遠鏡は1台ではないはず・・・。多くの望遠鏡から人工連星を見ることができなければ『比較』にはなりません。この条件を達成するためには最低30度程度の可視範囲が必要と思われます。
結局、この条件を満足するためにコア径250μm/外径500μmのプラスチックファイバ、光源は20mAで10cdという超高輝度白色LEDの組み合わせを使うことにしました。(LEDは電力制御回路で出力は自由設定可能)
人工連星の中身
上の写真は人工連星の内部です。屋外で最低一晩のドライブが可能なように電源は単三電池4本(6V)、連星は2組製作することにし、それぞれの連星毎に輝度調整回路を付加しました。
光ファイバとLEDの結合(アクリル棒からカプラを製作)
LEDは直径5mmの標準タイプです。これを包み込んで光ファイバに効率的に光を導入できるカプラをアクリル棒から切り出しました。
出来上がった人工連星 離角1秒(ファイバ間距離1mm)と2秒(2mm)
アルミボックスに0.5mmの穴を心間1mmと2mmになるようにあけてそこに光ファイバを固定していよいよファーストブライトです。
結果は、一応『人工連星』的な雰囲気の光源が出来上がりました。
これからいろいろと調整を行って、今年の石川町SLFに持ち込む予定です。
2004/08/27
8/21にTitaniumのガレージ加藤さんのお宅にお邪魔して人工連星の調整を行いました。加藤さんのお宅の前は100mと250mの見通しがとれる空間があるからです。
100m離れた道端に人工連星を置いてアルタイル程度の明るさに調整した上で加藤さんの自作
8cm
屈折望遠鏡Titanium-80の視野に入れると・・・見えました!!!、かなり見事な二重星です。宵闇の中、まだ昼間のぬくもりの残っている道路の陽炎も作用して本物の星と言っても『ウソ』とは思えない像が見えています。
そんな訳で少し気をよくしてこの2〜3日かけて人工連星の充実をはかりました。この改造では連星というよりは二重星と言ったほうが正しいような改造も加えることにしました。
改造のポイントは、離角の異なる二重星の数を増やすことにして、これまでの1mmと2mmの2星に加えて3mmと4mm程度のものを追加することに。そして、石川町の暗いフィールドで人工二重星を容易に探し出せるように赤い点滅マーカーも追加することにしました。
3個の二重星とマーカーを付けたところ
せっかく二重星を追加することにしたのですから離角だけを変更したのではおもしろくありません。そこで至宝の二重星『アルビレオ』を作ってみることにしました。
『アルビレオ』は見たことのない星屋さんがいないほど有名で美しい二重星です。橙とレモングリーンの1対の明るさの等しい星はいくら見ていても飽きることのない美しさで、これを表現することはなかなか難しそうです。
最近のLEDは近赤から近紫外までさまざまな波長のものが出ています。0.25/0.5mmの光ファイバを用いた人工星に十分対応する
高輝度タイプのものも多いです。しかし、たとえ橙とレモングリーン色のLEDを使っても『アルビレオ』を表現することはできないでしょう・・・。
なぜならば、LEDが出力する波長は50nm程度の半値幅でしかないからです。
この問題を解決するためには幅広い波長帯を含む白色LEDに色素フィルタを付けて色を表現するしかないでしょう。
ということで、以下に人工二重星の作り方も含めて人工『アルビレオ』の製作過程をご紹介します。
上の左の写真は犠牲になってもらったLEDです。発光部が欲しかったわけではなくフィルタとして色付きのケースが欲しかったので先端を2つに割った上で切り離したところです。
切り飛ばした2色のLEDケースをエポキシ接着剤で貼り付け、元のドーム状のLEDの先端を造ります。そして、同じく先端を切り離した高輝度白色LEDの本体に接着します。これで白色光から色フィルタを通して橙色とレモングリーン色の光を取り出すことができるようになります。
そして、それぞれの色のケースに0.5mmのドリルで光ファイバをセットする穴をあけます。
右の
写真はケースの穴に光ファイバを入れてエポキシ樹脂で固定したところです。このとき光ファイバの先端にも接着剤を入れたほうが光量を稼ぐことができます。
アルミボックスケースにも0.5mmの穴を2つあけてそこに光ファイバを通して、裏側で光ファイバをボックスにエポキシ樹脂で固定します。その後、アルミボックスからの漏れ光を防止するためにLEDと光ファイバの出口付近、それにLEDの裏側を黒の塗料でコーティングします。光ファイバそのものはコーティンク゛しなくても大丈夫です。
このような状態で固定できたら電源を投入してみます。光ファイバの先端からちょっと色の違う光が出ているのが判りますか!!! プラスチック光ファイバはカッターナイフでキズを付けて反対側に折り曲げると簡単にきれいな切断面を得ることができます。
さて、人工『アルビレオ』、いかがでしょうか・・・。一番左の二重星です。フォーカスを合わせて撮影するとあまり良く色が判りませんので、ピンボケ写真も一緒に載せてみました。ちょっと控えめな色表現かもしれませんけれども・・・『アルビレオ』に見えていると思います。
加藤さんの空気望遠鏡OAT-78は今年の富士山観望会で多くの方にアルビレオを堪能していただいたそうですが、たぶん色収差の大きな光学系ならばこの人工『アルビレオ』もちゃんと色収差を再現してくれると思います。
ビクセンの60MにK-25mmを付けて部屋の中(距離12m位)で人工二重星を撮影してみました。
ビクセン60M+の25mm、距離12mで撮影
望遠鏡を通すと人工星の色調なんかがかなり違って見えてきます。生の白色LEDで生成している二重星(左の3星)
は青の色収差でちょっと派手目に写っていますが、アルビレオはフィルタがかかっているので暗めです。そのかわり色が良く判るようになりました。もっとも肉眼的には一つ前のピンボケ像の写真の方により近く見えています。
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