FS-200 (20cm・F10ニュートン反射) の改修

 惑星用に気合を入れて研磨した20cm・F10放物面鏡、660倍の高 倍率にもえられ満足の主鏡だったのですが一つだけ不満がありました。
 それは架台がドブソニアンだったということなのです。このドブソニアン架台もアジマス軸に平面度の良い2枚の大理石プレートでニードルローラーベアリン グを挟むなど高倍率の手動追尾に対応する工夫をしてきたのですが、惑星写真を撮影するには不適でした。しかも動きをスムースにするための構造が災いして鏡 筒が23Kg、架台も20Kgという移動するには苦難を伴う重量となってしまいました。
 結局、惑星写真好きの私にとって『猫に小判』状態が2年間も続いていました。

 そこで、思い切って鏡筒のリニューアルを決心したのでした。

 コンセプトは赤道儀に載せること・・・でした。赤道儀化に当たってはポーラースタットなども試したのですが直径30cmの高精度平面鏡は大変だというこ とを実感、結局、主鏡の光学性能をそのまま発揮できる純ニュートンでドイツ式赤道儀に載せることにしました。

 赤道儀に長さが2m近くもある長大な鏡筒を載せるには軽量化が不可欠となります。でもそこはFriendShipの本領発揮で乗り切ることに。

 実は鏡筒軽量化の隠し玉が2つあったのです。

 1つ目は北陸アルミの『アルミ長生蒸篭』という商業厨房向けセイロで す。私はかつてあるDIY店でこの蒸篭を発見したときにこの素材に魅せられてしまっていたのです。その理由は軽く、しかもニアネットシェイプで鋳込まれた 素材を研削加工した上に外表面がバフ研磨されているという素晴らしい造りなのです。そして特筆もののところがまさに9点支持の主鏡セルのリブそのものの構 造(右の写真)でした。直径28cmのこの素材が1個6000円弱、いかがですか、自作心がムズムズとしてきません???。
 そしてもう一つの隠し玉が自作仲間からの『頂き物』、カーボンファイバクロスでした。
 この際だから市販鏡筒の最高級材料といわれているGFRP鏡筒にしてしまおうということを考えたのです。

 今回自作するGFRP鏡筒のラフスケッチは右の図のような感じになりま した。まあこのように上手く行くのかどうか判りませんし、だいたいからしてGFRPの筒なんて作ったこともないので不安をいっぱい抱えたまま、でも不安よ りもずっと大きな夢を追いかけての出発です。
 うまく完成すれば軽量で非常に高い強度で外観も美しいオンリーワン鏡筒が完成するはずです。
 もちろんあちらこちらの星祭りに引っ張りまわすつもりです。

 さて、それでは加工開始です。先ずはトップリングの製作です。

 今回の合焦装置にはカサイトレーディングが取り扱っているマイクロクレイフォードフォーカサーを使うことにしました。これは高精度の合焦をするための微 動機能を備えているためです。

  

 フォーカサーを取り付ける穴を蒸篭の横腹に開けて、底の部分の6本リブをフランジ部で切り取って、円形にヤスリで仕上げてとりあえず完成。

 続いて斜鏡金具を製作します。

 


 惑星用に特化した20cm・F10ニュートンでは斜鏡短径はたったの 25mmしかありません。これは超軽量の斜鏡金具で全体の軽量化には大いなる貢献なのですが微細加工が求められるために製作は結構大変です。
 指先ほどの斜鏡金具はFS-160で実績のあるボールリンク方式を採用することにしました。使ったボールは直径4.75mmのもの・・・。このボールに 旋盤で穴をあけて、M3タップを立てて、支持側の3点調節式のアルミブロックに取り付けて出来上がりです。

  

 次の製作物は斜鏡の吊り金具、スパイダーで す。これまでの角型鏡筒では厚さ0.3mmのりん青銅材料でスパイダーのブレードを作りましたが今回は一層の軽量化と高弾性を求めて0.3mmのチタン板 を使うことにしました。そして鏡筒側の支持部分には位置決め機能を有するレールを取り付け、スパイダーの先端に取り付けたアルミブロックをレールの中で 引っ張ることで適当な与圧を与えることにしました。

 これでトップリングが完成です。

 


 次はエンドリング(主鏡セル)の製作です。主鏡は9点支持方式にしま す。

 もともと『アルミ長生蒸篭』の素晴らしいところはそのまま9点支持セルの要素を全て備えていることですのでこの機構をそのまま利用することにします。先 ずは三角プレートを製作して、それを載せるリングプレートをアルミ長生蒸篭から切り取った6本リブ2枚で作ります。これが主鏡セルになります。
 さらに主鏡セルをエンドリングに取り付けた3本の光軸調整ネジに取り付けます。このあたりの加工は組み立て精度と強度が要求されますので全てタップたて 加工をしてステンレスネジで締結します。

   

 更に鏡筒後方からの迷光を防止して換気を完璧にするための遮光処理と虫 除け網を取り付けて主鏡セルを光軸調整ネジのトップ金具に固定します。この金具もボールジョイント方式として主鏡セルへの応力緩和を狙います。

 さて、それではいよいよカーボンクロスを 使ったCFRP筒の製作です

  

 CFRPの筒を作るには幾つかの方法が考えられます。最も真円に近い筒を作るには目的の直径よりも1cm程度小さい径の塩ビ管などを型材としてその上に カーボンクロスを載せながらFRP樹脂で固めていく方法が確実です。
 でもこの大きさの鏡筒ともなると適当な型材を手に入れるのは困難です。そこで平板を作って巻く方法を採用することに・・・。
 平面は廊下などに敷く『長尺シート』を利用することにしました。

 右の写真は出来上がった2本のCFRP筒です。

 実は、平板を接合するときの接合部分の処理が大変に難しく、筒の内部に角材を入れ、その上に錘を乗せたら接合部が扁平してしまいました・・・まっ、いい か。


 ここまで来たら次に筒内部にもう1層カーボンクロスを貼り付けて2層のCFRPとします。2層にするとその強度の凄さを実感できます・・・鏡筒に跨って もびくともしない強度なのです。

 出来上がったCFRP筒1個とトップリング、ボトムリングを組み合わせると25cm・F4ク ラスの鏡筒になります。それを今回使用するLXD-700赤道儀(MEADEの175ED屈折鏡筒を載せるために開発された赤道儀のようで、GOTO赤道 儀の走りのものだったようですがドライブトレインが完全に故障したものをジャンク購入してレストア、モータードライバも自作したものです)に搭載した写真 ですが大型のLXD-700赤道儀が小型に見えてしまうから凄い大型の鏡筒です。

 でも素晴らしいことに非常に軽量で、長さ1mのCFRP筒の重量はたっ たの1.5Kgしかありません。これならば超軽量鏡筒が期待できます。想定ではざっと見積もって10Kg程度でしょうか・・・。


 

 次に2つのCFRP筒を接合するための中間リングを作ることにします。 実はこれはエンドリングを作る前に製作してしまいました。切り取った6本リブを主鏡セルのプレートに使ったのです。そして、鏡筒回転機能を確実なものにするためには真円度を向上させることが不可欠と考え、当初予定していた中間リング1個ではなく2個採用することにしました。
 これも手作業でリブを切り取り、ヤスリ掛けで処理をしました。


 

 上の写真は光学系を実装しない状態で鏡筒を組んだものです。大きさの比 較用として2女をスケールにしました。このときは未だリングは3個ですが蒸篭をもう1個奮発して鏡筒回転装置も実現することにしました。


 

 いよいよ最後の部分まで完成です。内部にはB&プレーン社取り 扱いの遮光クロスを全面に貼りました。これで迷光防止は完璧です。鏡筒回転は鏡筒バンドを少し緩めて行うのですが、取っ手としてガレージ加藤さんからいた だいた赤いカラーアルマイト処理がなされた特殊アルミブロックを採用、後方にはミラー掃除用の窓を付けました。この窓は鏡筒を切り取った材料をそのまま流 用しました。(筒の一部を切り取っても変形しないところでまたCFRPに感激・・・)

 


 最後に接眼部右斜め上に『北軽井沢観測所 FS-series』のロゴをクラフト金属の鋳造で作成したエンブレムを取り付けて、鏡筒の蓋をフライパン用 の蓋を加工して取り付けて、同じネジ穴を利用して210φの絞りフードが取り付けられるようにして、更にファインダーを取り付けるためのレールも取り付けて完成しました。

 完成した鏡筒の全備重量は11.1Kg、これは本当に驚きの軽量さでした。



 今回もこの鏡筒の製作に協力していただいた皆さんに感謝!!、まさに『Friendship万歳』を実感した自作でした。