天体写真を志している皆さんは誰でも夜露に悩まされておられるのではないかと思います。ご多分に漏れず私も 夜露に悩まされている一人です。そこで自作屋として製作を手掛けたのが今回ご紹介する『露よけヒー ター』です。

 

 レンズなどに夜露が付着する『結露現象』は湿度が十分に高くて気温が下がりつつある気象状態のときに発生しやすく、相対湿度が80%を越えると周囲より も温度の低い部分に選択的に水の凝集が始まります。
 周囲よりも温度が低くなりやすい場所は、熱伝導が高い材料や熱容量の小さい材料が使われている場所で、熱伝達の良いアルミなどの金属材料と熱容量の小さ なガラスが使われているカメラ
レンズや望遠鏡の鏡筒などはこ の条件に極めてよく合致します。

 しかし、水の凝集の原理を改めて考えてみると、周囲よりもほんの僅か温度が高ければそこに凝集は起こらない(起こりにくい)ということが判ります。しか もカメラや望遠鏡のレンズの場合、使われている材料の熱容量が小さいのですから、少しの熱エネルギーを与えてあげるだけで比較的容易に結露は防げることに なります。
 そこで、僅か数Wの極小パワーのフレキシブルヒーターと電力を制御する回路を製作しました。



 上の図はエミッタフォロワという電力増幅回路で、今回のコントローラーに用いた回路です。


 電圧調整だけならば12Vの入力側に接続した2KΩのボリュームを調整することで中間端子に0〜12Vの任意の電圧を取り出すことができるではないかと 思われますが、これだけでは電流を流すことはできません。



 例えばボリュームを真ん中に設定した場合、2KΩの半分の1KΩの抵抗とヒーター抵抗の合成抵抗に12Vの電圧が かかることになります・・・これではヒーター抵抗に分配される電圧は低くなるし、電流は流れないし・・・

 そこで、この中間端子の電圧をNPNトランジスタのベースに接続し、コレクタを12V電源に接続しますとベー ス電圧と等しい電圧がエミッタから出力されます。もちろんコレクタ-エミッタ 間は等価的に無抵抗とみなすことができますから流せる電流は出力端に接続する負荷の抵抗で決まります。そしてこのトランジスタの定格電流までOKとなりま す(もちろんトランジスタには放熱板など熱対策は不可欠です)。これがエミッタホロワ回路のご利益なのです。




 今回使用するヒーターは24V・24W程度のサミコンヒーター(シリコンゴムとポリイミドフィルムの間に ヒーター回路を埋め込んだもの)で、これに12Vをかけますと定格の1/4、6Wの発熱体となります。

   

 私はこのサミコンヒーターを秋葉原の坂口電熱で 購入して、ケーブルとイヤホンジャックのコネクタを取り付けました。同社にはさまざまな種類のヒーターが用意されております。

 念のために1回路分の実体配線図を掲載します。



 製作したヒーター制御回路は冒頭の写真のような手に載るほどの小さなボックスに入れて移動に対応しております。このボックスの中には3chのヒーター制 御回路と1chの照明用赤色LED制御回路、それに2台のポータブル赤道儀の駆動電源用ケーブル分配コネクタを組み込んであります。

 

 上の写真からもお解かりいただけると思いますが、3chのヒーター制御に用いている3個のトランジスタ(2SD633)は アルミボックスの筐体に絶縁熱伝導シートを介して取り付けてあり、放熱対策としております。1chあたりの回路はものすごく単純なのですが、小さなボック スに多くのchを組み込もうとすると結構な『タコ足配線』になってしまうものですね。

 このヒーターコントロールユニットとサミコンヒーターを組み合わせてPENTAX67用の35mm・F4.5フィッシュアイレンズへ適用した場合、約 10V、5W弱のパワーでどのような気象条件でもレンズが曇ることはありません。35mm判フィルム用のレンズの場合は3W程度でも十分な結露防止効果が あります。

 ということで、遠征先のフィールドで大いに役に立つヒーターコントロール回路ですが、このコントロール回路1chあたりの定格電流は
3Aま で可能ですので、接続するヒーターの抵抗値を上手く選定すると25cmクラスの望遠鏡の結露防止まで可能になります。
 また、エミッタフォロワ回路は屋外で活動する星屋にとって非常に有用な回路でして、『高品位モータードライバ』の電力制御段にも、『FS-160ニュー トン反射鏡筒』に組み込んだ鏡筒内換気用ファンの回転数制御部にも使っています。

 
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