新型 QCAMの改造

プ ロローグ

 私はこれまでその時々で手に入るCCDやビデオカメラを改造して10種類程度の天 文用 動画カメラを製作してきました。

 最初は25万画素のモノクロビデオカメラユニット改造から始めて、最近はWebカメラの改造が主な対象になってきました。

 Webカメラは従来のNTSCビデオカメラの撮像機能と画像データをPCへ転送するファイル処理機能が複合化されており近年のノートPC環境に最適のカ メラといえます。
 ところでこのWebカメラ、当初は25万画素クラスのモノクロから始まったのですが『あっという間』に技術革新が進みました。

 『25万画素モノクロCCD』 → 『25万画素カラーCCD』 → 『40万画素カラーCCD/CMOS』 → 『130万画素CMOS』

というような流れでしょうか。
 この中で
『40万画素カラーCCD』の代表格だったPhilipsのToUcamは惑星写真の分野でアマチュア天文界にセンセーションを巻き起こしたヒット商品 で、Registaxと組み合わせたコンポジット像は光学系の口径を2倍にしたような劇的な解像度で多くの方々に受け入れられました。

 最近では
ノイズレベルが低減されたCMOSセンサを搭載したWebカメラが主力となりつつあり、最上位機種の画素数も130万画 素まで精細度を増しました。
 『130万画素・・・』と言えば数世代前のデジカメレベルですよね。それを静止画モードでサポートしているWebカメラは惑星用として新たなジャンルを 開いてくれるのではないかと期待しつつ新しいカメラを試作することにしました。

 今回選択したWebカメラはLogicool社のQCAMシリーズ最上機種の QVX-13NSです。このカメラは130万画素のCMOSセンサを搭載しており、低照度域で高い感度を示すことが『キャッチコ ピー』のひとつです。

 実際のメーカー仕様は下記のようなものです。

  RightLight2テクノロジー搭載 True1.3メガピクセルCMOSセンサ
 動画 VGA (640×480 最大30フレーム/秒)
 静止画 1.3メガピクセル (1280×960)、最大 4メガピクセル
 オート/マニュアルゲイン調整、アンチフリッカー
 Windows 2000/XP
 Pentium4 1.4GHz以上 (P4 2.4GHz以上を推奨)
 またはAthlon 1GHz以上

 パワーのあるCPUを要求しているので汎用性という意味ではちょっと厳しいところがあるかもしれませんが何といってもピクセル補完ではない1240× 960ピクセルの静止画が撮れるということは最大の魅力です。それに撮像素子のサイズが小さいので直焦点撮影をする場合に同じ光学系でも拡大率を稼げるこ とも『惑星用』として魅力のあるところです。

 それではこのカメラをベースにした改造、始めます。


筐体の製作

 今回も筐体はこれまでの改造カメラ製作で実績のあるアルミダイキャスト製ボックスを利用します。設計のイメージは右の図のような感じです。

 今回選定したボックスのサイズは80×55×30mmのものです。この筐体は秋葉原の電子回路用ボックス専門店で購入しました。
 次に、このボックスにCマウントレンズの穴(24φ)とケーブルコネクタの穴
(9φ)と 撮像素子の高さ調整をするための固定ネジ用の穴(2φ)4個をあけます。





 24φの穴にはCマウント 用の1"-32のタップを立てます。このタップネジがカメラとレンズの取り付けにおけるスクゥェアリング精度を決めてしまいますのでしっかりと垂直を出す 必要があります。
 また、アルミプレートには回路基板に付いた撮像素子の高さが調整できるようにM2のタップを立ててバネを併用した『引きネジ型アジャスタ』とします。筐 体の側面1箇所にコネクタを取り付ける穴もあけておきます。ここまでで筐体の加工はとりあえず中断です。


QCAMの改造

 
前回用いたQV-4000シリーズで は低照度感度がやや不足していたので回路乗数を少しいじったのですが今回のQVX-13NSは十分な低照度感度があります。従って回路には手を入れなくて済むことは嬉しい点で す。



 先ずはQCAMの裏側にある2mmネジ1本を外します。これだけでプラスチック筐 体の裏表ユニットに分離できます。基板は裏側ユニットに2mmネジ4本で固定されています。
 表側ユニットは使いませんが裏側ユニットはちょっとした加工を加えてそのまま使う ことにします。
 裏側ユニットには基板固定用のネジ台やスタッドが立っていますのでそれらを傷つけないように注意をしながら基板を取り外します。



 裏側ユニットにはPCへの固定用クリップとケーブル引き出し用の固定具が実装されております ので次の作業はそれらのパーツを取り外して裏側ユニットの裏面を平坦になるようにヤスリで仕上げます。
 そして仕上げた
裏側ユニットをアルミプレートに2mmネジで固定し ます。固定箇所は撮像素子の真下、ケーブル側の基板取り付けネジ台上方あたりが適当です。ネジはM2皿ネジで裏側ユニットをザグリしておくと基板上の電子部品や回路との接触防止になります。



 基板は僅かですが簡単な加工をしなければなりません。
 ケーブルは裏側にUSB仕様のシールドケーブルが付いていますが10cm程度
のところで切断してシールドを剥ぎ取ります(中には赤、白、黒、緑の4本の線と2本の黒い グランド線があります)。ここで2本のグランド線を束ねて別の線1本と半田接続します。接続部の保護として熱収縮チューブをかけておくことも必要です。
 次に基板表側(撮像素子の付いた方です)に付いているLEDとコンデンサマイクロフォンを半田ごてを使って外します。このときに飛散した半田が回路上や 撮像素子に付かないように細心の注意が必要です。



 基板加工の最後は撮像素子カバーの筒を半分くらいに切断します。この部分は撮像素子の表面を 汚してしまう可能性が高いので削り粉などの出る加工方法は避けます。(私は固いものの上で外側からカッターナイフを当てて切断しました)
 ここまでできたらアルミプレートに取り付けた裏側ユニットの所定位置にオリジナルの2mmネジを使って改造済みの基板を再固定します。(おさらいとして 改造部分を示しました)



 左の写真はアルミプレートを筐体にセットしたところです。(実際にはアルミプレートとコネク タが干渉したのでアルミプレートの一部を切り取りました)

 4隅のM2ネジでアルミプレートの高さを自由に調整できます。
 筐体内の最後の加工はコネクタへの配線です。電子回路全体がシールド性に優れた肉厚のアルミダイキャスト筐体内に収納されますからこの部分のシールドは 必要ありません。(なくてもオリジナルよりもノイズレベルは確実に低下します)




 筐体内の配線が完了したら外側のコネクタも組み立てます。こちらの方はコネクタ内の空間が狭 いので配線同士がショートしないように十分な配慮が必要です。もし少しでも不安がある場合は熱収縮チューブなどを併用すると良いでしょう。

 ここまできたら裏蓋を閉めて『NewQCAMの完成』で〜す。

 でも、あとちょっと作業が残っているんですよね・・・。



 ということで、筐体のCS変換リングにCSマウントレンズを取り付けます。ピント位置は無限 遠(FAR側)にセットします。
 この状態でPCに接続してQCAM付属のドライバソフトウエアを起動します。もちろん全く問題なく立ち上がるでしょう。
 画像は出ていてもピントが合っていない状態だと思います。また、画面がちょっとマゼンダっぽい感じがするかもしれません。
 ピント位置はこれから調整するので問題ありません。画像がマゼンダっぽいのはオリジナルのQCAMに付属していたレンズを外してしまったのでレンズの最 後面にコーティングされていたIRカットコーティングが付いていないからなんです・・・。
 この問題は市販のIRカットフィルタを用いることで
解決することが できます。(私はIDAS社のIRカットフィルタを使っています)

 ピント位置を出すためにはCSマウントレンズのピントリングをFAR側に合わせて、できる限 り遠方にカメラを向けてPC画面を見ながら4本のM2ネジでアジャストしていきます。
 CマウントレンズやCSマウントレンズは一眼レフカメラ用のレンズと比べて一般的には簡易的な構造や光学系の構成をしていますからそれほど高い精度や解 像度ではありません。ここでは目いっぱいFAR側で無限遠像のピントが出るようにしてしまうともしかして合焦しないレンズが出てくるかもしれませんからほ んの少しオーバー側まで合焦できるような位置に合わせることがノウハウです。(この手のカメラの場合、画像を見ないで撮影開始ということはあり得ませんか らこれでも問題ありません)
 ピントの位置出しでもう一つの留意点は基板のスクゥェアリングで しょう。これが上手くできていないと画面の上下や左右、対角などどちらかの方向に一方向にピントが悪くなるような傾向が出ます。防止策としては、ある程度 ピントが出たところでカメラの裏蓋を開けてアルミプレートから飛び出している2mmねじのピッチ数を数えて、同じ数になるような位置を探していく方法があ ります。


私の場合のアクセサリ

 こうして出来上がったnewQCAM、市販のCマウントアダプタを適用することが可能です。私の場合には20cm・F10反射(FS-200)の2イン チ接眼部の
直焦点位置に直接取り付けできるようなアダプタを自作しました。



 QCAMにはツアイスサイズスリーブにCS変換リングを取り付けたユニットを取り付けます。 これで様々な旧タイプの望遠鏡に取り付けができるようになります。
 これにツアイス→アメリカンサイズ変換スリーブを付けるとアメリカンサイズを採用した最近の望遠鏡に対応可能となります。
 ツアイススリーブもアメリカンスリーブも先端にはフィルタネジが切ってありますからIRカットフィルタをはじめとする様々なフィルタの取り付けも可能で す。



 そして極めつけはアメリカンスリーブもツアイススリーブも内装してしまう2インチスリーブで す。このスリーブはエンプラのジュラコンから旋盤で削り出しました。
 このスリーブ、極小の斜鏡で筒外焦点距離を稼げないFS-200の接眼部を使って直焦点撮影をする場合に筒外繰り出し量が最小になる構造を狙ったもので す。



New QCAMの実力

(1)静止画モード

 さて、とても気になるNew QCAMの実力についてご紹介します。

 以下の写真はNew QCAMの静止画2Mモード(1600×1200)で撮影した1フレーム画像を800×600ピクセルに縮小して掲載したものです。当日の 2007.1.1は気流が余り良くなく4/10程度でした。そのために画像の部分部分で解像度に揺らぎが見られますが比較的輝度分布の平坦な月面写真であ るにもかかわらず良好な階調の得られることが判りました。





 また、上の写真の原画像から縮小なしで切り出したクラビウスとコペルニクス部分を下に掲載します。これらの画像から従来のWebカメラでは顕著だったブ ロックノイズが見事に修正されていることも判ります。



 実は、この画質ような画質は私の所有している一眼デジカメの20DやE-330で もなか なか得ることのできないレベルのものです。(PC画面でピント合わせをするのだから・・・当たり前なんでしょうか??)

 月面撮影におけるこのカメラのもう一つの面白い使い方は小口径短焦点鏡による月面全景像撮影でしょう。New QCAMは私の所有しているFCT-65の直焦点(320mm)でちょうど画面いっぱいの拡大率になるのです。FCT-65はfl=300mmクラスでは ダントツの解像力がありますからピント出しの課題を克服できれば・・・これも最高に面白い機材構成・・・ということになるかもしれません。




(2)動画モード

 動画だったらコンポジット・・・これも最近の常識に近い画像データ処理手法です ね。次の写真は上のクラビウスを撮影した後に撮影した640×480ピクセルの動画をRegistaxでコンポジットして得たものです。画像をクリックす るとコンポジットの元になった動画をご覧いただくこともできます。(aviファイルを再生可能なコーディックが必要です)



 いかがでしょうか・・・。コンポジット画像のディーテイルもさることながら、動画 を『一時停止』したときの1コマ画像は動画モードで撮影されたものとは 思えないほど品質の高いものだと思います。

 最後に、低照度の天体に対する特性をご紹介します。



 上の写真はやはり気流の悪かった2007.01.01に撮影した土星から1700 枚のフレームをコンポジットして得られた画像です。FS-200にPL20mmをプロジェクションレンズとして併用したものでCCDサイズに対してこのサ イズの焦点像を得ています。
 New QCAMも従来のQCAM同様に低照度域での彩度再現性はあまり良くないようです。この点では明らかにFinePix4800Zなどのバカチョンデジカメ に劣ります。しかし、低照度域の感度は高いので調整によってはもう少し改善される可能性はあると思われますし、月面同様に階調はかなり良好だと思います。


最後に

 ご紹介してきたNew QCAMですが、これまでのWebカメラと比較して格段に低照度感度と階調が改善されました。この改善が画素数の増加によってもたらされたものか、それと もデータ処理手法の改善によるものなのか真の原点は判りませんが、とにかく1万円を切る店頭販売価格でこれだけの品質の得られるカメラを手にすることがで きるということに驚きを感じています。
 小サイズの撮像素子は感度が・・・ということがこれまでの常識だったように思いますがこのカメラを使って技術革新の速さと素晴らしさを実感ししました。
 同時 に、多くの方々にこのカメラを効果的に使いこなしていただきたいと考えてこのページをアップし
た次第です。


 最後に、このページの記事はLogicool社とは全く関係のないこと、改造は個人の責任において実施するものであることを明示して結ばせていただきま す。