高橋製作所製 『FCT
-65』 のリポート
ハレー彗星が回帰したのはもう既に20年も前になってしまいました。ちょうどその頃、現在の
天体望遠鏡界の雄-高橋製作所-がFCTシリーズという超高性能フローライト鏡筒を販売していました。
当初FCTシリーズは1985年に76mmと150mmのものが市場に登場し、その後100mmや125mmなどの大口径までに発展したと記憶していま
す。
FCTシリーズの最大の特徴はアマチュア向け天体望遠鏡のジャンルで色収差を含む各種収差補正においてF8が限界と考えられていた口径比を3枚玉フロー
ライト対物を採用することでF6以下まで縮めたことではないでしょうか。
そのFCTシリーズの中で最小口径であったFCT-65はfl=320mm(F4.9)、レデューサーを併用するとfl=240mm(F3.7)とい
うダントツに明るい光学系が搭載されたもので非常に興味深い仕様となっていました。
私はこの『仕様』に魅せられてこの鏡筒を購入したのですが、一回り大きな口径のFCT-76とほとんど変わらない価格であったためか少数生産台数で終了
してしまった機種であったようです。(希少価値のあるビンテージ望遠鏡の一つですね・・・)
上の写真は私のFCT-65です。20年前に生産されたものであるにもかかわらずこの望遠鏡は現在の短焦点RFTと共通するフォルムを持っているところが凄いと思います。(逆
に言えば現在のRFTは少なからずFCTシリーズのフォルムに影響を受けているということなのでしょう)
ビンテージ物のビンテージたる所以には性能などの本質的な機能が優れていることはもとより、他にはないミステリアスなところなどがあると益々・・・とい
うことになるのですが、このFCT-65はエンブレムにもその要素が含まれているんですよ。
フローライトFCT-65
D=65mm f=300mm
と記載されているのですが、あれれ??・・・、FCT-65ってf=320mmじゃなかったっけ・・・。実際の焦点距離は320mmなので高橋製作所がエ
ンブレムの記載を間違えたのではないかという憶測が当時の某有名天文誌のリポート紙面で展開されました。
この望遠鏡、対物レンズセルには光軸修正機構が無く、鏡筒径もレンズ径ギリギリという寸法なのですが、鏡筒内部には何重もの迷光防止絞りが施され、接眼
部には抜群のタッチのラック&ピニオンフォーカサーとカメラ回転装置が組み込まれている完全な写真鏡仕様です。この接眼部は私の持っているどの望
遠鏡よりも良い造りをしています。
FCT-65はハイスピード星野写真鏡という性格で販売されていましたので私も銀塩写真で星野写真をかなり
撮影いたしました。
上の2点は当時のISO800クラスの水素増感フィルムを用いて撮影したオリオン大星雲付近とバラ星雲ですが、レデューサー併用のF3.7によるハイス
ピード性と写野の隅々まで平坦でピンポイントの星像、周辺減光を感じることのできない特性がこの望遠鏡の素晴らしさと言えます。
しかし、銀塩フィルムの衰退と高級・高価格一眼デジカメの台頭でしばらくの間このような仕様の鏡筒を使用する機会が失われることになったのは私だけでは
なかったと思われます。
FCT-65が復活したのは一眼デジカメの価格が低下し、私にも手に入るようになった時点からです。下の写真はCanonの20Dで撮影したオリオン大
星雲で2つ上の写真と同じ場所です。一デジのピントはISO800の銀塩よりもシビアでまだ満足のいく星野写真が撮れていないのが実情ですが、ピクセルサ
イズの小さいCCDカメラと非常に鋭い星像が得られるFCT-65のような光学系の組み合わせは星野写真のジャンルに新たな展開をもたらしてくれるものと
確信しています。
さて、ここでFCT-65のもう一つの撮影ジャンルをご紹介します。
それは月面写真なのです。
上の月面はFCT-65の拡大焦点で撮影したものです。適当に撮影したので撮影条件などの記録は取ってありませんが、口径65mmの屈折望遠鏡を超える解
像度が得られていると思います。また、屈折望遠鏡で問題になる色収差については月面周囲の着色も認められず非常に良好に補正されていることが判ります。
(アイピースの関係で周辺部の解像度が低下していますが・・・これはFCT-65そのものの性能ではありません)
最近はWebカメラも非常に優れたものが出てきましたがこれもFCT-65には最適な撮影機材です。この自作ページでご紹介しているNew-QCAMで
FCT-65の直焦点撮影をすると丁度月面が写野いっぱいになるのです。
いかがですか・・・、MT-160と一デジで撮影する月面全体写真と見間違うほどの解像度と質感が得られているのではないでしょうか。
FCT-65はRFTの走り時期に市場に登場した製品ですが現在の新しい撮影機材と組み合わせることでその高性能ぶりを如何なく発揮できる素晴らしい基本性能を保有していることが判ります。
現在他のFCTシリーズについては競合する機材が販売されていますがFCT-65の場合にはあまり競合する仕様の望遠鏡がないこととこのような基本性能
から現時点においてもクラストップの性能を有するRFTであると確信できるものです。