1.プロローグ

2003/12/30

 私が天文の趣味をはじめた頃、40年近く前の話ですが、当時市販されていたアマチュア望遠鏡の主流は6cm屈折(fl=900〜1000mm)経緯台か 10cm・F10ニュートン反射だったように記憶しています。エイコー、ダウエル、日野金属、パノップ光学あたりが一般向けのリーズナブル価格のもの、五 藤光学やアストロ光学の望遠鏡は高嶺の花、西村製作所の15cmアップの経緯台はステータスそのものの時代でした。
 そのころの望遠鏡は押しなべてF値が大きいものが多かったように思います。屈折でF15、反射でF8〜10が標準的なものでした。
 このF値の設定、当時の屈折がレトロな設計のアクロマートレンズのみであったことを考えると『よく見える望遠鏡の条件』を満たすための当然の結果であっ たのだと納得できるものです。
 反射望遠鏡も彗星捜索をやっておられた諸先輩方が短焦点鏡を磨かれておられたようですが、コマコレクタも高性能な赤道儀もアマチュア向けに提供されてい なかった当時は10cm・F10ニュートンを搭載した小型赤道儀が比較的
精度の 揃った製品を出せるアマチュア向けのスペックだったのでしょう。
 10cm・F10ならば球面鏡でも・・・という話は良く聞くことですが、それならばまがりなりにも放物面に近づいた面整形されたミラーだったら間違いな く良く見えるはずだと思います。

 放物面鏡のニュートン反射の場合、中心像は無収差、外側に向かってコマ収差が目立つようになりますが、その程度は短焦点鏡ほど大きくなります。『天文ガ イド』の望遠鏡鑑定団ではF値別の
ロンキー像の曲がり具合許容量を定量化していますが、F8を越えると誤差の許容範 囲が随分広くなることがわかります。
 そしてもう一つ、F値の大きなニュートン望遠鏡は斜鏡の大きさが小さくて済むこと、スパイダーから主鏡面までの距離が長いためにスパイダーの干渉が拡散 軽減されること、もともとflが長いので中焦点距離の接眼レンズで高倍率を得られるために光学系全体が無理をしなくて済むこと(無理な短焦点アイピースを 使わなくても済む)など、安定した高倍率を得やすい光学系であることが特徴です。

 このようなことを考慮すると、惑星を見るための反射望遠鏡はやはりF値の大きなものが良いという結論に達します。

 私の住んでいる町は東京23区と境界を接する埼玉県最南端で光害のひどい地域です。ここで観測できる天体はほとんど『惑星しかない』状態です。そんなわ けで惑星専用のFS-160(16cm・F6.3ニュートン鏡)を自作しました。

 

 このFS-160は16cm鏡としては十分に満足のいく解像度を叩き出してくれる性能であるこ とが確認されましたが、著名な惑星写真家の方々が撮影された火星写真集(旭川天文同好会の阿久津さん、他)を見ると最低でも口径28cm、最大では 60cmアップのものが使われていることが判りました。

 もとより、光度のある惑星の場合、主鏡が集める光の光量よりも口径の干渉に伴うドーズ限界の方が問題となるはずです。しかし、干渉による分解能の限界は ドーズ値のように口径だけでは決まらず、斜鏡の大きさやスパイダーによる干渉も重要な要素になるものと考えられます。(光軸上に斜鏡のような遮光体のない アポ系屈折鏡やシーフシュピーグラーのような軸外し反射鏡では干渉の少ない分確実にコントラストが高いようです)
 それから口径による干渉とは別に、大気の揺らぎの影響も考慮しなければならない重要な課題で、ジェット気流下の日本では『大口径』がかえってマイナスに 作用することもしばしば言われていることです。

 そこでこれらの条件を考慮すると、

1) 口径は大きいに越したことはないがシンチレーションの影響を考えるとそこそこの大きさでよい
2) 惑星専用機では倍率勝負になることからできる限りF値の大きな望遠鏡を志向する
3) 光軸中心が無収差のニュートン鏡が適当だができる限り光路上の遮光体を小さくする

というコンセプトが見えてきます。

 それでは、どの程度の口径が理想的かということになりますが、FS-160で撮影した火星や土星の写りを見る限り「この口径でもいいのかな??」と思っ てしまいます。ただ、FS-160はF6.3(fl=1000mm)なのでRadian 3mmを用いても333倍にしかならず、ちょっと中途半端な焦点距離です。これはタカハシ製作所が高性能汎用機として製作したTS-160のミラーであっ たことを考えると仕方がありません。
 そして、これを越えるには20cm・F10がベストな仕様のように思えてきます。

 20cm・F10ニュートン反射、筒先と筒尻を入れると2200mm位の鏡筒長さになってしまいます。これを『一体ものの鏡筒』として移動可能な形で纏 め上げ、取り回すことは間違いなく大変です。おそらく取り扱いを考えた場合の限界の大きさと言えるでしょう。
 鏡面はもちろんできる限り高い精度に仕上げたいと思いますが、F10の許容誤差はかなり寛容なはずです。そこで、32年ぶりに鏡磨きに挑戦することにし ました。

 

 上の写真は20cm・F10研磨用に揃えたパイレックス鏡材ガラス2枚と盤用青板ガラス1枚です。これはNTKから購入しました。パイ レックスガラスの表面はアズキャストのためにピーリングが残っていますが、NTKのものですからたぶんアニールは完全でしょう・・・。研磨剤はNTKの セットのものの他にGCの#2000〜#6000、それにセポールというメカノケミカル研磨に耐える研磨剤を用意しました。
 また、鏡面化と面の修正研磨用として今回は研磨パッド(写真)を使ってみようと思い用意しました。研磨パッドは半導体やガラスウエハを研磨するときに必 ず用いられるコルク状のパッドでして、裏面は両面接着剤が塗布されています。硬さはほぼ盤用ピッチ位の硬度で、表面の穴に研磨剤が保持されますので研磨速 度が十分に稼げるはずです。
 本当にこれで上手くいくのかどうか判りませんが、とにかく一度やってみようと思っています。

 鏡面研磨をするに当たっては『2003年石川町スターライトフェスティバル』で知り合いになった神奈川県のMさんからいろいろとメールでご助言をいただ きました。(すごくよく見える自作31cmドブソニアンのご主人さんです!!)
 私の場合、本当は30年も鏡面研磨から離れてしまっているので完全な『浦島太郎状態』でして偉そうなことは言えないのですが、MさんのHPなどを訪問す るとハイアマチュアの鏡面研磨技術の進歩には目を疑うばかりです・・・。
 鏡の研磨については今後試行錯誤が続きそうですので、このHPご覧になられた皆さん、いろいろご助言お願いします。

 そんなわけで、早速、研磨開始当初にある程度正確な焦点距離の凹面
を出すために不可欠な計測器である球面計を、M さんのものを参考にしながら製作することにしました。



 球面計の測定器部はミツトヨ製の高精度級ダイヤルゲージで、直径56mmのステンレス製円盤の中心に取り付けてあります。円盤の裏面は準鏡面です。
 これを基準平面(オプティカルフラット)に乗せて何点か測定をしたところ指示誤差は±2μm以内であることが判りましたので20cm・F10の曲率測定 (0.098mm)にはまず使えるのではないかと思います。



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